霧立山地の植物
キリタチヤマザクラ
キリタチヤマザクラは、平成11年(1999)5月2日、霧立越の歴史と自然を考える会会長の秋本 治が霧立山地の白岩山で発見し、
平成13年(2001)5月1日、東京大学教授 大場秀章先生と宮崎県立総合博物館学芸員 斎藤政美先生によって「キリタチヤマザクラ」
と命名されました。
論文は、平成12年12月発行「植物研究雑誌」第七五巻 第六号に掲載されています。
開花期は、4月下旬から5月上旬で薄紅色の美しい花を咲かせます。
和名 キリタチヤマザクラ
学名 Cerasus sargentii Var.akimotoi
ヤマザクラと同じく開葉と同時に開花しますが、ヤマザクラのような総花柄がありません。
花柄が長くてメシベが突出し、リン片に粘性があります。学名の中にsargentiiがあるのはこの粘性があるオオヤマザクラ
を表し、オオヤマザクラとも違う特徴を持っていることから固有種とされたものです。その後、キリタチヤマザクラの植生
調査を行いましたが、白岩山の岩峰付近を中心に百本以上の成木が確認されました。
霧立越の歴史と自然を考える会では、2001年5月1日、キリタチヤマザクラの命名者、東京大学大場秀章教授をお迎えして基準木
に標柱を設置し、波帰公民館でキリタチヤマザクラの発表会を行いました。
現地での命名式は、
1.開式の辞
2.会長挨拶
3.来賓紹介
4.経緯報告(宮崎県立総合博物館学芸員 斉藤政美先生)
5.キリタチヤマザクラ命名(東京大学教授 大場秀章先生)
6.基準木標柱除幕( 東京大学教授 大場秀章様・宮崎県立総合博物館学芸員斉藤政美様・
宮崎県北部森林管理署高千穂事務所大倉所長様・宮崎県西臼杵支庁統括次長様・高千穂警察署長代理様
7.閉式の辞
場所を波帰公民館に移して16:00からキリタチヤマザクラについて発表会がありました。
1.白岩山の植生とキリタチヤマザクラについて(スライドによる解説)
講師 宮崎県立総合博物館学芸員 斉藤政美先生
2.キリタチヤマザクラの命名について
講師 東京大学教授 大場秀章先生
17:30閉会
白岩山のヤマシャクヤク群落
近年は、鹿の食害で絶滅へ追い込まれる種が増加していますが、ヤマシャクヤクとルイヨウボタン、
バイケイソウの3種は鹿が食べないので健在です。特に石灰岩地帯に育つヤマシャクヤクは、白岩山岩峰周辺
一帯に大きな群落を作るようになりました。岩峰基底部を一回りすると群落の見事さを堪能できます。
開花期は、例年4月下旬から5月上旬です。
ツクシシャクナゲ群落
シャクナゲのことを当地の方言ではシャクナンと呼びます。古くからシャクナゲ群落は、シャクナンワラと
いう地名として呼んいて、そこはイノシシも通らないとされていました。シャクナゲの古木は倒れて、その枝先
の地面についた枝から取り木となって芽が出て、そこから直立した木となり枝を広げるので、地面じゅうに枝が
広がっているため獣道さえできないのです。開花期は、例年4月下旬から5月上旬です。
白岩山のアザミ
これまで、秋に開花する霧立山地のアザミは、標高600~1,000メートルではツクシアザミ。千メートル
以上の高標高地帯では、ヘイケモリアザミと言われていました。形態は、ツクシアザミは根生葉が消えて上へ上へと
茎に葉をつけて伸びます。ヘイケモリアザミは、林床の光の少ないところでロゼット状に根生葉を地面に張り付けて
茎の上部には、葉が少ないという違いがあります。(写真左がツクシアザミ、右がヘイケモリアザミ)
ところが、高標高の白岩山には、ヘイケモリアザミとは違う形態を持つアザミがあります。2007年に出版した拙著「九州脊梁山地の植物308選 草本編」には、形態上はツクシアザミに
似ているためヘイケモリアザミの中にある「ツクシアザミ」として解説したところです。
ところが、その後、茨城県つくば市の国立科学博物館の門田裕一先生と県立総合博物館の斉藤政美先生を白岩山へご案内したところ、
そのアザミを見られた門田裕一先生から、後日次のようなお手紙をいただきました。
「白岩山の頂上岩峰の基部では見慣れないアザミを見かけました。ご高著「九州脊梁山地の植物308選 草本編」では「ツクシアザミ
」とされているものです。しかし、私は、このアザミは、ツクシアザミではなく、さらに既知のどの種とも異なるものであるという
確信を持っています。このことを今秋白岩山を再訪して是非確かめたいと思います。ー以下略ー」
それから後、秋に再訪されました。そうして
「Reprinted from the Bulletin of the National Museum of Nature and acience
Series B(Botany)」 Vol.34,No.4,pp.135-151
に「Habit of Cirsium akimotoi」として固有種として発表されました。ここで筆者の
名前がakimotoiとつけられていることに二度びっくり、門田先生に深く感謝しているところです。先生からのお手紙には、さらに
「九州を経ってから四国に渡り、石鎚山と東赤石山、剣岳などを見て回り、白岩山の植物との比較も行うことができました。
その結果、「コウスユキソウ」や「イシズチカラマツ」と白岩山で呼んでいるものは、四国のものとは有意に異なることも
分かりました。これらについては、継続して検討していきたいと考えております。」とあります。
白岩山の植物は、これからも次々と固有種になる可能性もあり、目が離せません。
白岩山のハナウド
ハナウドは平地では普通5月に開花します。少し標高を上がって600~700メートルになっても6月には開花するのですが、 白岩山のハナウドは、8月下旬から9月にかけて開花します。一時期、鹿の食害で姿を消しかけていましたが、 鹿防護ネットを敷設したことにより、昨今は少しばかり増えつつあります。このハナウドも、開花期が異なることから 平地のハナウドとは異なるものとされています。ツルギハナウドではないかといわれますが、ツルギハナウドとも異なる という説もあり、近い将来「シライワハナウド」という固有の名前がつくかも知れません。